他者の理解しがたい行動を目にした際、人はなぜ安易に「パラノイア」や「妄想障害」といった診断名をあてはめたがるのでしょうか。社会心理学の観点から見ると、ここには二つの大きな認知バイアスが作用しています。
第一に、「原因帰属の錯誤」です。周囲の過酷な環境や理不尽な搾取といった外的な文脈を無視し、問題の全責任をその人物の「内面的な異常性(精神障害)」に帰属させることで、観察者は複雑な事態を手っ取り早く単純化して理解した気になれます。
第二に、日本特有の「同調圧力」と「異質の排除」です。突出した自己主張を行う人物や、組織の常識に異を唱える告発者を「偏執狂」「被害妄想の持ち主」と呼んで病理化することは、旧来の集団秩序を守るための最も安易な防衛手段として機能してきました。しかし、歴史を振り返れば、当時の「常識」に抗い、偏執的とも言える情熱で改革を推し進めた先駆者たちが、後世において社会の発展を牽引した事例は枚挙にいとまがありません。突飛に見える言動を安易な病名で切り捨てる態度は、本質的な議論や才能の芽を摘み取る危うさを秘めています。