メガホンを取った是枝裕和監督の視線は、今回もどこまでも冷徹で、かつ深い慈愛に満ちていた。制度の狭間にこぼれ落ちる人々、自己責任論が蔓延する世間の冷淡さ。そうした構造的な問題を単なる告発に終わらせず、生身の人間の息遣いを通して可視化する手腕は、まさに社会派ドラマの第一人者たる真骨頂と言える。
監督は現場で、あらかじめ決められた結末へと急ぐことを頑なに拒んだ。俳優たちとの対話を重ね、時にはロケ現場の空気感や天候に合わせてシナリオをその場で書き換えていく。社会の不条理を前にして安易な答えを用意しない。その誠実な作家性こそが、本作を単なるお涙頂戴の劇画から切り離し、世界基準の普遍的な芸術作品へと押し上げた原動力だった。