「辛酸を舐める」と最も混同されやすい表現が「苦杯を喫する(くはいをきっする)」です。両者はともにネガティブな経験を表しますが、焦点が当てられている「時間の長さ」と「出来事の性質」に決定的な相違点があります。
「苦杯を喫する」の苦杯とは「苦い酒が入った杯」のことであり、それを一気に飲み干す(喫する)行為を指します。つまり、勝負事での敗戦、コンペでの失注、トーナメントでの敗退といった「点(一過性の事象)」としての苦い結末を表す際に用いるのが適切です。これに対し、「辛酸を舐める」は数か月、数年、時には数十年におよぶ下積みや再起への闘いという「線(持続的な状態)」を表します。
ビジネスや日常の主要な関連表現を一覧で比較すると、それぞれのニュアンスの違いが鮮明になります。
例えば、「昨日のサッカー日本代表戦で辛酸を舐めた」という言い回しは、時間のスパンとして不自然です。1試合の敗戦であれば「苦杯を喫した」とするのが自然な日本語です。逆に、「10年間ベンチを温め、辛酸をなめ続けた末に掴んだレギュラーの座」という文脈では、「苦杯を喫した末に」と置き換えることはできません。