音尾琢真の俳優キャリアにおいて決定的な転機となったのが、白石和彌監督との出会いです。映画『凶悪』(2013年)への出演を皮切りに、『日本で一番悪い奴ら』(2016年)、『止められるか、俺たちを』(2018年)、『死刑にいたる病』(2022年)、そして『碁盤斬り』(2024年)に至るまで、白石監督のほぼ全作品に起用され、「白石組のミューズ」「白石映画の守護神」と称されるようになりました。
そのなかでも映画史に名を刻む怪演として語り継がれているのが、映画『孤狼の血』(2018年)および続編『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)で演じた暴力団・加古村組の構成員「吉田滋」役です。劇中で見せた狂気と哀愁、さらに真珠を埋め込んだ特殊な身体的特徴を持つヤクザという極端な役柄を、生々しいリアリティをもって演じきりました。試写室や劇場ではその迫真の演技に息をのむ観客が続出し、ネット上でも「本物のヤクザにしか見えない」「音尾琢真の怪演がトラウマレベルで凄い」と大きな反響を呼びました。
音尾琢真の演技力の真骨頂は、単に叫んだり威嚇したりする表面的な激しさではなく、「視線の揺らぎ」「微かな呼吸音」「沈黙の間」によって人間の内側に潜む狂気や弱さを可視化できる点にあります。NHK大河ドラマ『どうする家康』で見せた鳥居元忠役の忠義と壮絶な最期、日曜劇場『陸王』で見せた厳格な指導者像など、善悪どちらの極致にも振り切れる振れ幅の広さが業界内で唯一無二の評価を得ている所以です。