銀製品をお手入れする上で、まず正しく理解しておくべきなのが銀の硫化と黒ずむ理由です。多くの人が「銀が酸化して錆びてしまった」と誤解していますが、銀という金属は極めて化学的に安定しており、通常の空気中で酸素と結びついて黒いサビを作ることは基本的にありません。
シルバーが黒く変色する真の原因は、空気中や人体に含まれる微量な硫黄(S)成分と銀(Ag)が結びついて生じる硫化銀(Ag2S)の被膜です。都市部の空気中に漂う排気ガスや、日常的に使う化粧品、香水、さらには人間の皮脂や汗に含まれる微細なアミノ酸(シスチン等)からも硫黄成分は供給されます。ほんのわずかな接触であっても、時間とともに銀の表面に硫化銀が薄く積層し、黄色がかった変色から茶褐色、そして最終的には漆黒の皮膜へと進行していく仕組みです。
特に注意が必要なのが温泉地帯です。硫黄成分が充満している温泉施設にシルバーリングを着用したまま入浴すると、わずか数十秒で真っ黒に変色します。しかし、これは表面に極めて薄い硫化被膜が形成されただけであり、金属の内部まで腐食しているわけではありません。正しい化学処理や物理的ケアを施せば、金属そのものを傷めることなく完全にリフレッシュできます。