彼らが暮らすのは、チベット自治区、青海省、四川省西部、甘粛省、さらにはインドのラダック地方にまたがる広大なチベット高原です。年間平均気温が氷点下近く、樹木がほとんど育たないステップ気候(寒冷荒原)という、生物にとって極限の環境が広がっています。
このような荒野において、彼らの生存を支えているのが小型草食哺乳類である主食のナキウサギ(主にクチグロナキウサギ:Ochotona curzoniae)です。野生動物研究機関による排泄物分析や定点追跡調査によると、チベットスナギツネの食事内容の実に95%以上をナキウサギ類が占めていることが判明しています。まさに「ナキウサギを食べるために進化した捕食者」と言っても過言ではありません。
捕食行動において特筆すべきは、ヒグマ(チベットヒグマ)との奇妙な共存関係です。現地のフィールド観察記録によると、巨大なヒグマがナキウサギの複雑な地下トンネルを力任せに掘り返す際、チベットスナギツネは少し離れた出口付近で静かに待機します。ヒグマの巨体から逃れようと別の出口から飛び出してきたナキウサギを、横から電石火火のスピードでかっさらうのです。一見すると狡猾な横取りに見えますが、ヒグマ側もキツネを執拗に追い払うことは少なく、過酷な高地でエネルギー消費を抑えながら確実にタンパク質を得るための合理的な立ち回りが観察されています。