「十人十色(じゅうにんといろ)」の辞書的な定義は、「十人いれば十人とも、考え方・好み・性格・意見などがそれぞれ異なっていること」を意味します。ここでの「十」は具体的な実数を指すのではなく、「不特定多数の人間」を象徴する数詞であり、「色」は視覚的な色彩ではなく「性質・傾向・好み」を指しています。
この言葉の語源を遡ると、古代中国の古典や日本の仏教文化に深く結びついています。仏典『法華経』普門品に記された「種種色色(しゅじゅしきしき)」という概念や、人間のあり方を多角的に捉える仏教的視座が中世から近世にかけての民衆文化に浸透しました。江戸時代の狂言台本や雑俳、滑稽本などにおいて、庶民の多様な生態を「十人十色」とリズミカルに言い表す表現として定着した経緯が、国文学の研究資料でも確認されています。
人間を単一の型に当てはめず、多様性と個性の尊重を直感的に捉えた表現として、数百年を経た現在も廃れることなく日本語の基幹表現として息づいています。