摩利支天のルーツは、古代インド神話の女神「マリーチ(Marīcī)」に遡ります。サンスクリット語で「光線」や「陽炎(かげろう)」を意味する言葉であり、太陽神スーリヤに先駆けて夜明けを告げる光の化身として誕生しました。これが仏教に取り入れられ、毘沙門天や帝釈天らと同じ「天部」と呼ばれる守護神の枠組みに位置づけられることになります。
仏教の経典『摩利支天経』には、摩利支天の際立った性質が克明に記されています。それは「誰も見ることはできず、捉えることもできず、騙すこともできず、傷つけることもできない」という絶対的な防護の力です。太陽の光線や陽炎そのものは実体として掴めず、刀で斬りつけることもできません。この「不可知・不可触・不可傷」の神力こそが、摩利支天最大のアイデンティティとなっています。
日本には平安時代初期、弘法大師空海らによって密教の尊格として伝えられました。当初は密教寺院での修法が中心でしたが、中世以降、命のやり取りが日常であった武士階級の台頭とともに、独自の信仰形態へと急速に発展していきました。