ガラス張りのオフィスビルや最先端のスマートシティ機能が拡充された高輪エリア。その喧騒からほんの少し足を進めると、かつて武家屋敷が立ち並んでいた高台の歴史的街区が現れる。松島屋が暖簾を掲げる伊皿子坂周辺は、かつて昭和天皇が皇太子時代に訪れるなど、皇室とのゆかりも深い土地柄だ。
毎朝8時30分の開店時刻を待たずして並ぶ人々の目的は、ただ一つ。その日に職人の手で包まれた出来立ての餅菓子だ。都市のデジタル化や完全キャッシュレス決済が標準となった2026年現在も、松島屋の店先にはどこか懐かしく温かい対面販売の空気が残る。常連客と店員の短い挨拶、手際よく包装紙に包まれる手応え、そして紙袋から漂うほんのり香ばしい餅の匂い。この情緒こそが、現代人が求める真の贅沢なのかもしれない。