9代目現行アルトにおいて、なぜワークスおよびアルトターボRS新型の設定が見送られたのか。そのアルトワークス廃止理由には、主に3つの明確な要因が存在します。
第1の要因は、国土交通省および経済産業省が主導するCAFE(企業別平均燃費基準)規制の達成圧力です。メーカー全体で販売した車両の平均燃費を一定基準以上に保つ義務があり、燃費性能よりも出力や加速レスポンスを重視する純ガソリンターボ車は、販売台数が増えるほど企業全体の燃費平均値を押し下げてしまいます。日常のアシとして圧倒的な台数を稼ぎ出すアルトシリーズにおいて、CO2排出量の多いターボモデルを維持することは経営上のリスクとなり得ました。
第2の要因は、スズキ R06A ターボエンジンとプラットフォームの適合問題です。現行型アルトは燃費効率と実用性を極限まで追求した「R06D型エンジン(自然吸気)」とマイルドハイブリッドの組み合わせを主軸に据えて設計されました。ここに従来のR06A型ターボユニットや高剛性サスペンション、アルトワークス ターボ MT用の3ペダル構造を無理に押し込む場合、専用設計のフロアパネルや補強が必要となり、生産ラインの効率が著しく低下するという採算性の問題が浮上したのです。
第3は、先進運転支援システム(ADAS)の標準装備化に伴う制約です。衝突被害軽減ブレーキ「デュアルカメラブレーキサポート」の制御と、クラッチペダル操作を伴うマニュアルトランスミッションの協調制御には専用の適合開発が必要であり、限られた軽自動車の価格帯の中で開発コストを回収することが極めて困難でした。