県外の旅行者やネット上の言説において、「大分に来てわざわざお好み焼きを食べる理由はない」という言説がまことしやかに語られることがあります。とり天や中津からあげ、関あじ・関さばといった派手な名物料理に耳目が集まりやすいためですが、これは大分の食文化史を見落とした大きな誤解と言わざるを得ません。
歴史的に大分市は、別府港や大分港を介して大阪・神戸と結ばれる瀬戸内航路の重要拠点でした。昭和期から関西の粉もの文化がいち早く流入した一方、豊予海峡を挟んだ対岸の愛媛・広島からも高度な重ね焼き技術が伝播しました。その結果、大分のお好み焼きは単なる模倣に留まらず、地元の甘口醤油文化や魚介出汁、カボス果汁を用いた調味ダレと融合し、独自の進化を遂げたのです。
「どの店も同じような業務用ソースを使っている」という思い込みも事実無根です。大分市内の名店と呼ばれる厨房では、オリバーソースやオタフクソースをそのまま使う店舗は極めて稀であり、地元醸造元の醤油や柑橘果汁、赤ワイン、すりおろしリンゴなどをブレンドした「秘伝の自家製熟成ソース」を門外不出のレシピとして守り続けています。この味付けの立体感こそが、食べログ等の点数だけでは推し量れない実力派店舗の真価です。