四国霊場を巡る際、必ずしも1番から番号順に回る「順打ち」でなければならないという絶対的な規則はありません。逆順に巡る「逆打ち」や、地域ごとに区切る「区切り打ち」など多様な巡礼形態が存在します。その中にあっても、圧倒的多数の巡礼者が四国八十八ヶ所第1番札所である霊山寺から旅路を開始するのには明確な理由があります。
奈良時代に聖武天皇の勅願によって行基菩薩が開基し、弘法大師が約37日間の修行を経て釈迦如来像を刻んで本尊としたと伝わる霊山寺。かつて上方(関西方面)から淡路島を経由して鳴門に渡ってきた巡礼者にとって、地理的に最も立ち寄りやすい位置にあった歴史的背景が今なお息づいています。加えて現代においては、「巡礼の初心者がゼロから知識と装備を授かり、心身を整えて出発できるインフラ」が完全に整っている点が決定打となっています。
山門をくぐった瞬間に漂う線香の香りと、これから約40日(徒歩の場合)に及ぶ過酷な道中へ挑む人々の程よい緊張感。霊山寺の境内には、日常の雑踏から聖なる非日常へと滑らかに意識を切り替える特有の空気感が満ちています。