国立西洋美術館の本館は、2016年7月にユネスコ世界文化遺産「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の構成資産(世界7カ国・計17資産)の一つとして正式登録されました。日本の建造物として世界遺産に登録されているものの多くは神社仏閣などの歴史的建造物ですが、国立西洋美術館は「20世紀の近代建築」として登録された極めて特異な存在です。
世界遺産選定の最大の決め手となったのは、建築界の巨匠ル・コルビュジエが生涯をかけて追求した「無限成長美術館(Musée à croissance illimitée)」の設計思想が、実物として世界で最も忠実に具現化されている点にあります。この構想は、美術品の増加に合わせて巻貝のように外側へ展示室を拡張できるという革新的なシステムでした。
館内には、ル・コルビュジエが提唱した「近代建築の5つの要点」が鮮やかに散りばめられています。
- ピロティ:地上階の壁を取り払い、開放的な柱だけで建物を支える構造。かつて上野公園の緑と一体化していた前庭空間を形成。
- 19世紀ホールと螺旋スロープ:自然光を採り入れる三角形のトップライトを備えた中央大空間。スロープを歩く速度によって鑑賞者の視点が立体的に変化する「建築的プロムナード」を創出。
- モデュロール:人体の寸法と黄金比から割り出された独自の尺度。天井高2メートル26センチを基準とした展示空間が、鑑賞者に圧迫感を与えない心地よい秩序を生み出す。
- 照明ギャラリーと屋上庭園:かつて外光を展示室へ導くために設計された中二階の採光構造(現在は人工照明と調和)と、都市に緑を取り戻すための屋上空間。
展示室の壁面や柱に残る杉板型枠のコンクリート打ち放し跡は、1959年の開館当時の息吹を今に伝えています。前庭のリニューアル工事を経てル・コルビュジエ存命時の景観が復元された現在、建物そのものが息づく巨大な彫刻作品として鑑賞者を魅了しています。