足の爪の表面に現れる横方向の段差や筋は、医学用語で「爪甲横溝(そうこうおうこう)」、あるいは発見者のフランス人医師の名をとって「ボー線条(Beau's lines)」と呼ばれる。なぜ縦ではなく「横」に溝が走るのか。その理由は、爪が作られるメカニズムそのものにある。
爪は指先の皮膚の奥深くにある「爪母」という組織で日々作られ、指先に向かって押し出されるように伸びていく。しかし、身体が高熱に襲われたり、局所に過度な物理ストレスが加わったりすると、爪母の細胞分裂が急激に減速、あるいは一時的に完全停止する。その後、体調が回復すると再び通常の厚みで爪の形成が再開されるため、休止していた期間の部分だけが薄く窪み、結果として横溝となって前進していくのだ。
ここで知っておくべき決定的な事実は、手の爪と足の爪の「成長スピードの差」である。日本皮膚科学会の臨床データによると、手の爪が1日に約0.1ミリ(1か月で約3ミリ)伸びるのに対し、足の爪の成長速度は半分以下で、1日にわずか約0.05ミリ(1か月で約1〜1.5ミリ)程度にすぎない。足の親指の爪が根元から先端まで完全に生え変わるには、約12か月から18か月(1年〜1年半)という長い歳月を要する。
つまり、爪の根元(甘皮付近)から5ミリほど離れた位置に横線がある場合、それは「現在進行形の病気」ではなく、「およそ3〜4か月前に爪母の活動を止めるほどの強い肉体的・精神的負荷、あるいは外傷があった」という客観的な履歴を示している。足の爪の横線は、身体が潜り抜けてきた過去のダメージを映し出すタイムカプセルに他ならない。