都市伝説が誇張であるとはいえ、コーラが歯に対して完全に無害であるわけではありません。化学的な視点から歯と酸の関係を紐解くと、決して軽視できないリスクが存在します。
人間の歯の表面を覆っているのは、人体で最も硬い組織とされる「エナメル質」です。エナメル質はハイドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウムの結晶で構成されていますが、酸には極めて脆いという弱点を持っています。歯科医学において、エナメル質溶解のpH値(臨界pH)は約5.5と定義されています。口の中がpH5.5以下の酸性に傾くと、エナメル質を構成するカルシウムやリンがイオンとなって唾液中に溶け出します。この現象をリン酸による歯の脱灰(だっかい)と呼びます。
西荻窪いとう歯科医院の伊藤高史院長をはじめとする多くの歯科専門家が指摘するように、コーラのpH値は銘柄にもよるものの、およそ2.2〜2.5前後という非常に強い酸性を示します。これは胃酸(pH1.0〜2.0)や食酢(pH2.5〜3.0)に匹敵する数値です。コーラには爽快感を出すための「炭酸」だけでなく、独特の酸味とキレを生み出すために「リン酸」が添加されており、これが強力な酸性環境を作り出しています。
歯科学で有名な「ステファンスカーブ(口腔内pHの経時的変化曲線)」が示す通り、ひとたび強酸性の飲料が口に入ると、口内pHは一瞬にして臨界pH5.5を割り込みます。この瞬間、歯の表面では確実に微小レベルの脱灰がスタートしているのです。