世間には「手足口病は子供の病気だから、大人がかかっても大したことはない」という根強い誤解が存在します。しかし、医学的な実態はその逆です。免疫を十分に獲得していない成人、とりわけ妊娠によって細胞性免疫が自然に抑制されている妊婦が感染すると、子供よりもはるかに激烈な症状を呈することが珍しくありません。
大人の手足口病における重症化の兆候として、40度近い急激な高熱、全身の倦怠感、関節痛に加え、足底や手指の深部に生じる強い圧痛を伴う水疱が挙げられます。重症例では歩行不能や筆記不能に陥るだけでなく、発症から数週間から2ヶ月ほど経過した後に、手足の爪が根元から剥がれ落ちる「爪甲脱落症」を起こすケースも報告されています。さらに極めて稀ではあるものの、エンテロウイルス71型感染による無菌性髄膜炎や脳炎、急性弛緩性麻痺といった中枢神経系の合併症には警戒が必要です。
では、体調の異変を感じた際、妊婦の手足口病における産婦人科受診の目安はどこにあるのでしょうか。受診にあたっての絶対の鉄則は、「いきなり産婦人科の待合室に飛び込まない」という点です。産婦人科の待合室には、新生児を連れた母親や臨月の妊婦など、感染を絶対に避けなければならないハイリスク者が集まっています。事前の電話連絡なしに受診すると、院内感染を引き起こす危険性があります。
以下の症状が見られた場合は、まずかかりつけの産婦人科へ電話を入れ、感染症の疑いがある旨を伝えて指示を仰いでください。
- 38.5℃以上の高熱が出現し、半日以上解熱しないとき
- 口腔内の激痛により、水分すら摂取できず尿量が明らかに減少しているとき
- 規則的なお腹の張り、激しい下腹部痛、性器出血など切迫早産・流産の兆候があるとき
- 激しい頭痛、嘔吐、意識の混濁、光を異常に眩しがるなど中枢神経症状が疑われるとき
- 妊娠36週以降(臨月)に手足の発疹や発熱などの感染兆候が現れたとき