「ゴミひとつ落ちていないリビングに、なぜコバエが湧くのか」という疑問に対し、害虫駆除の現場技術者は「人間にとってのゴミと、コバエにとっての繁殖適地には決定的なズレがある」と指摘します。コバエの幼虫が生息するために必要な条件は、ごくわずかな有機物と適度な水分、そして外敵から隠れられる隙間だけです。人間の視界に入りやすい三角コーナーやゴミ箱が清潔であっても、日常の死角にわずか数ミリの有機堆積物があれば、そこは彼らにとって理想的な産卵場所へと変貌します。
現場調査で最も頻繁に遭遇する盲点の筆頭が、キノコバエと観葉植物の土の組み合わせです。インテリアとして室内に置かれた観葉植物に含まれる腐葉土や有機質肥料は、キノコバエ類にとって格好の繁殖環境を提供します。土の表面から深さ数センチの部分に無数の卵が産み付けられ、水やりによって維持される湿度が孵化を促します。肥料成分を含まない無機質の土を使っているつもりでも、受け皿に溜まった微小な有機残渣や水が温床になっている例は枚挙にいとまがありません。
続いて見落とされがちなのが、水回り配管の奥深くに形成されるバイオフィルムです。台所や洗面台の表面をどれほど洗剤で清掃しても、排水管トラップの奥やオーバーフロー穴(洗面台の水があふれないための上部スリット)の内部には、油脂や石鹸カス、抜け毛が混ざり合ったヘドロが蓄積します。ここがチョウバエやノミバエの聖域となり、目に見えない配管内部で世代交代が繰り返されます。成虫になったコバエが隙間から這い出してくるため、部屋の表面だけをいくら磨いても「発生源がわからない」という迷宮に陥るのです。