「アディショナルタイムが10分を超えている」「前後半合わせると100分以上の試合が日常茶飯事になった」という近年の変化には、明確かつシステマティックな理由が存在する。サッカー界を揺るがした時間管理のパラダイムシフトは、2022年のカタールワールドカップで導入された厳格な時間計測基準から本格的に火がついた。
改革の旗振り役となったのは、FIFA審判委員会の責任者であるピエルルイジ・コッリーナ氏だ。コッリーナ氏は当時の記者会見で、観客や視聴者が高額な対価を支払って観戦しているにもかかわらず、実際のプレー時間(アクティブプレータイム)が平均して50分〜55分程度にとどまっている不健全な実態に強いメスを入れる意向を表明した。これを受けて、あらゆる試合停止時間を機械的かつ正確に埋め戻す方針が世界中に敷かれたのである。
主審が手元のストップウォッチで計測し、アディショナルタイムとして積算する対象項目は、競技規則第7条(試合の時間)において明確に定められている。具体的には以下の要素がすべて秒単位で合算される。
特に加算時間を跳ね上げる最大の要因が「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入時間」と「ゴール後のセレブレーション」だ。際どい判定のレビューには1回あたり1分半から3分以上を要することがあり、さらに複数回のゴールが決まれば、選手が自陣に戻ってキックオフするまでの歓喜の輪に1回あたり1分強の時間が消費される。これらを従来の感覚のように「大雑把に2分」と丸めるのではなく、実際に止まっていた全時間を正確に算出してアディショナルタイムに上乗せするようになった結果、提示時間が跳ね上がっているのだ。
さらに、リードしているチームによる露骨な遅延行為(スローインやゴールキックを過剰に遅らせる行為、軽微な接触での過度な倒れ込み)に対しても、審判団は容赦なく時間を計上する。遅延行為を行ったところで試合終了が遠のくだけという構造を作り出すことで、フェアでスピーディーな試合展開を担保する狙いがある。