「前夜の21時以降は絶食を守ったのに、なぜ朝一番の検査で血糖値が基準を超えるのか」。この疑問を解く鍵は、人体のエネルギー供給基地である肝臓の糖産生機能にあります。食事をしていない睡眠中、脳や赤血球などの生命維持に欠かせない組織へブドウ糖を供給し続けるため、肝臓は蓄えられたグリコーゲンを分解したり、アミノ酸などからブドウ糖を合成(糖新生)したりして血液中に放出しています。
健康な体内環境であれば、膵臓から基礎分泌されるインスリンがブレーキの役割を果たし、肝臓からの糖放出は必要最小限にコントロールされます。しかし、内臓脂肪の蓄積や運動不足によって肝臓のインスリン感受性が鈍る「肝インスリン抵抗性」が生じると、インスリンという名のブレーキが故障した状態に陥ります。その結果、体内に糖が余っているにもかかわらず、肝臓が夜通しブドウ糖を血中に放出し続け、朝方の測定時に高い数値として現れるのです。
さらに見逃せない生理現象が、暁現象による早朝高血糖です。人間の生体リズムは、起床に向けて覚醒準備を整えるため、午前3時から早朝にかけてコルチゾールや成長ホルモン、アドレナリンといった抗インスリン作用を持つホルモンを一斉に分泌します。健康であればインスリンの追加分泌によって相殺されますが、糖代謝能が低下しているとホルモンの影響をダイレクトに受け、食事を一切摂っていない早朝に血糖値が急上昇する現象が起きます。空腹時血糖が高い原因の根底には、外からの糖分摂取ではなく、内なる糖代謝システムの破綻が存在しています。