物語の起点となるのは、原口元子が勤務する大手銀行の冷徹な現実です。元子は地味で堅実な女子行員として働きながら、銀行の奥底でうごめく巨額の脱税システムに気づきます。それが、富裕層の脱税指南として行われていた架空名義預金でした。
なぜエリート医師や学校法人理事長、政治家たちは架空の名義で口座を作るのか。その理由は極めて単純でありながら根深いものでした。莫大な診療報酬や裏口入学の謝礼金、政治献金などの裏金を正規の所得として申告すれば、最高税率による重課税が課されます。銀行側もまた、巨額の預金残高を確保して業績を伸ばすため、違法と知りながら偽名口座の開設を黙認・推奨していたのです。
元子はこのタブーを逆手に取ります。顧客の偽名、本名、口座番号、残高を克明に一冊の黒い手帖に書き写し、1億2000万円(2017年武井咲版では1億8000万円)を自身の口座へ堂々と引き出したのです。銀行の支店長と次長が警察への通報を盾に元子を追い詰めた際、元子が差し出したのがその手帖でした。
「警察を呼べば、この架空名義預金のリストをすべて国税局とマスコミに公表します。銀行の社会的信用は失墜しますが、それでもよろしいですか?」
社会的体面を何よりも重んじる銀行上層部は手も足も出ず、「事件を一切公にせず、横領した金を返還請求しない」という誓約書に署名捺印せざるを得ませんでした。こうして元手を手に入れた元子は、銀座の一等地に自らの城となるバーを開くことになります。