インターネット上のQ&AサイトやSNSでは、「水分を取れば尿が出るはず」「お風呂で温まれば自然に出てくる」といった素人判断の民間療法が散見されます。しかし、これらの言説は極めて危険な誤解です。
最も警戒すべき盲点が、「市販の総合感冒薬(風邪薬)や抗アレルギー薬、睡眠導入剤による薬剤性尿閉」です。これらの薬剤に広く含まれている「抗コリン作用」や「抗ヒスタミン作用」を持つ成分は、膀胱の筋肉(排尿筋)の収縮を抑制し、逆に膀胱の出口(内尿道括約筋)を強く引き締める作用を持ちます。
前立腺肥大症の初期症状を自覚していなかった男性が、風邪を引いて市販薬を服用した数時間後に突然一滴も尿が出なくなるケースは、泌尿器科の救急現場で日常茶飯事となっています。総合感冒薬の添付文書に「前立腺肥大等による排尿困難のある人は服用しないこと」と明確に警告されているのはこのためです。
また、高齢者の尿が出ない原因と経緯においては、「重度の便秘」が引き金になるケースが頻発しています。直腸に硬い便塊が大量に停滞すると、すぐ前方に位置する膀胱頸部や尿道を物理的に圧迫し、尿閉を引き起こします。認知症を患っている高齢者の場合、激痛を言葉で訴えられず、ただ落ち着きをなくして暴れたり(せん妄)、食欲不振に陥るだけのケースも珍しくありません。家族や介護職が「そういえば今日はおむつが一度も濡れていない」と気づいたときには、すでに急性腎不全寸前まで進行している例も後を絶ちません。