バッグのハンドルやベルトループに大振りのぬいぐるみを提げるスタイルが定着するなか、その主役として脚光を浴びたのが「모루인형(モルインヒョン)」と呼ばれるモールドールです。ソウル・聖水洞(ソンスドン)や弘大(ホンデ)の雑貨ブティックを発信源とするこのムーブメントが日本国内へ波及した背景には、韓国モールドール流行の理由として挙げられる「タイパ(タイムパフォーマンス)と自己表現欲求の融合」が存在します。従来の編みぐるみや羊毛フェルト制作には数時間から数日単位の根気が必要でしたが、モールドールなら移動の合間やスキマ時間の10分程度で、自分だけの唯一無二の作品を具現化できる手軽さがあります。
さらに注目すべきは、材料側の技術革新です。旧来の学校教材用モール(直径約6mm)は芯線の針金が透けやすく、大人向けの造形には耐えられませんでした。ところが近年、ポリエステル繊維を高密度に植毛した直径15mm〜20mm超の「太モール・ボアモール」が市場に定着。これによって、100均モールアート材料を用いても芯線が一切見えず、まるで海外トイのような重厚でリッチな毛並みが再現できるようになりました。
文化社会学的な視点で見れば、デジタル画面の中で完結する消費に疲弊したZ世代を中心に、手作業で立体物を生み出す「手ざわりのある体験(タンジブル・クラフト)」への回帰が起きています。出来上がったドールにミニチュアのサングラスやビーズネックレスを着せ替え、SNSに投稿して承認を分かち合う文化は、単なる手芸の枠を超えた現代的なコミュニケーションツールとして機能しています。