「洗車用シャンプーが切れていたから、台所の中性洗剤で洗ったけれど何の問題もなかった」という体験談は、ネット上で定期的にバズを生み出します。結論から言えば、汚れを洗い流すという物理的な動作そのものは成立します。しかし、それは「短期的には洗えたように見えるが、不可視のダメージが確実に蓄積している」状態に過ぎません。
都内の高級車専門コーティングショップで年間数百台の車両を手がけるチーフディテイラーは、取材に対して現場の実情を次のように語っています。
「お客様の中に『汚れがひどかったので台所洗剤でガシガシ洗った』と持ち込まれる方がいらっしゃいますが、ボディに触れた瞬間に異変が分かります。塗装表面の保護油分が抜け落ちてキシキシと軋み、ゴムモールは白く粉を吹きかけている。油汚れを落とす力と、自動車のボディを安全に保護する技術は完全に別物です」
食器用洗剤は、陶器やガラス、ステンレスに付着した動物性・植物性の油脂を強力に乳化・剥離することを目的に開発されています。一方の自動車外板は、デリケートなクリア塗装、柔軟性を保つべき合成ゴム、未塗装樹脂パーツ、そして緻密なガラス被膜が複雑に組み合わさった精密な工業製品です。家庭用の洗浄論理をそのまま持ち込むこと自体に、構造的な破綻が存在します。