人情劇の深みと対をなすのが、読者を腹筋崩壊の渦へと叩き落とす爆笑ギャグ回の爆発力です。こち亀のギャグ構成における黄金パターンは、「両津の天才的な着眼点による起業・ブーム創出」から「強欲による際限なき拡大」、そして「予期せぬアクシデントによる壊滅的大破局」という三段論法に集約されます。
その代表格が、年2回恒例となっていた「ボーナス争奪戦」シリーズです。商店街の借金取り集団との知略を尽くした軍事演習さながらの攻防戦は、回を追うごとにエスカレート。地下トンネルの掘削から特殊部隊の投入、果ては最新鋭ハイテク兵器の応酬へと発展し、読者の想像力を遥かに超えるスケールで展開されました。さらに、第98巻の『浅草サンバカーニバルの巻』や、特殊刑事課の面々(海パン刑事、月光刑事ら)が初登場するエピソード群は、ナンセンスギャグの極致として今なおネット上で語り草となっています。
そして、混乱の渦中で放たれる両津勘吉の名言の数々も見逃せません。単なる暴言や拝金主義にとどまらず、そこには過酷な現実を生き抜くためのしたたかな人生哲学が宿っています。
「悩んだらまず寝ろ!」「恥をかいても生き抜くやつが一番強いんだ」「人生をやり直す必要はない、今ここから新しく始めればいい」。自らの失敗や欲望を隠すことなく全肯定し、何度借金を背負っても翌週には笑顔で立ち上がる両津のバイタリティは、読者にとって一種の精神的解毒剤として機能していました。