普段は侵入者を容赦なく威嚇するハヤブサですが、毎年2月から6月にかけての繁殖期を迎えると、その発声バリエーションは驚くほど多彩かつ繊細なものへと変貌を遂げます。
オスがメスに対して獲物をプレゼントする「求愛給餌(コートシップ・フィーディング)」や、崖の窪み(岩棚)に作られた巣座への誘導時には、威嚇時のトゲトゲしさは完全に消え去ります。喉を絞り出すように「クックックッ」「キーキー」「ピィーッ」と甘えたような鼻にかかる柔らかい鳴き声(ウィーチング音)を発し、パートナーに対して攻撃の意図が一切ないことを示すのです。この求愛時の鳴き交わしは、つがいの絆を強固にし、繁殖の同調性を高める上で決定的な役割を果たしています。
さらに、初夏に誕生する雛(ヒナ)の声も見逃せません。孵化直後の雛は小鳥のような「ピヨピヨ」とした微弱な声を漏らす程度ですが、生後3週間を過ぎて羽毛が生え揃う頃には、空腹を訴える猛烈な物乞い声(ベギング・コール)へと進化します。親鳥が獲物(ドバトやヒヨドリなど)を掴んで巣に帰還した瞬間、雛たちは「ギャーギャー」「ピィーピィー!」と耳が痛くなるほどの金切り声を一斉に張り上げます。この貪欲な要求コールこそが、過酷な自然下で親鳥の給餌本能を強烈に刺激し続ける引き金となっているのです。