1970年代以降の「ヌーヴェル・キュイジーヌ」の台頭や、近年のイノベーティブ・フュージョン、発酵技術や酸味を取り入れた軽やかなモダンフレンチの隆盛により、クラシックな料理技法は一時「重すぎる遺物」と見なされた時代もありました。ルーで濃度をつけた濃厚なソースは姿を消し、素材本来のジュ(肉汁)や野菜のエッセンスを活かす調理法が主流となったためです。
辻調理師専門学校の創設者である辻静雄は、生前の解説や著作の中で「エスコフィエを理解せずして現代フランス料理の革新を語ることはできない」と繰り返し強調しました。辻静雄が遺した数々の講義録や評論が示す通り、現代のトップシェフたちが展開する軽快なアプローチも、エスコフィエが体系化した「素材の旨味をどう抽出し、どのように調和させるか」という基本原理の解体と再構築に他なりません。
古典の文脈を知る料理人は、なぜこの食材にこの付け合わせ(ガルニチュール)を合わせるのかという必然性を深く理解しています。流行が移り変わる時代だからこそ、幹となる普遍的なクラシックの教養を持つシェフが国内外で確固たる評価を獲得しています。