本作の結末ネタバレを語る上で極めて重要なのが、森田鉄雄の下した決断です。
神威一族との死闘を生き抜いた森田は、莫大な報酬を手にしたものの、精神的に完全に摩耗していました。平井銀二のように他者の破滅や命の剥奪を冷徹に受け流すことができず、虐げられた者や弱者への哀憐の情を捨てきれなかったのです。森田は自分が「銀王」の領域には行けない平凡で優しい人間であることを認め、銀二の元を去ることを告げます。
銀二は引き留めることなく、森田の稼ぎ出した大金を渡して静かに見送りました。
そして単行本最終巻のラスト、森田のその後が描かれます。かつて通い詰めていた場外馬券場で、わずかな小銭を握りしめ、周囲の無骨な男たちとともにレースに一喜一憂する森田の姿がありました。巨額の金を動かす怪物たちの世界から降り、名もなき市井の人間として「当たり前の日常」へと帰還した瞬間です。
この幕引きは、一見すると敗北や挫折に見えるかもしれません。しかし実態は、魂を悪魔に売り渡す寸前で自らの人間性を死守した「生の肯定」であり、非常に深みのある文学的結末として高く評価されています。