物語は「二枚の青い幻燈(げんとう)」という印象的な語り口で始まります。映写機によってスクリーンに投影された2枚のスライド写真のように、明確に対比された二つの情景が展開します。
【一、五月の世界:光と捕食の恐怖】
舞台は日差しが差し込む五月の谷川の底。小さな蟹の兄弟がクラムボンの様子を無心に語り合っています。そこへ突然、青白い尖った嘴を持つカワセミが水中に飛び込み、目の前を泳いでいた美しい魚を瞬く間に突き刺して連れ去ってしまいます。弟蟹は怯え、父親蟹は「あれはカワセミだ。大丈夫だ、もう行っておしまいになった」と諭します。カワセミと魚の描写は、美しくも容赦のない食物連鎖の残酷さを鮮烈に描き出します。
作中で父蟹が告げる「イサドの意味」については、賢治が創作した理想郷(トポス)の名とされ、水底の蟹たちにとって地上や空の世界、すなわち未知の別世界を象徴する言葉として機能しています。
【二、十二月の世界:静寂と豊穣の恵み】
半年が経過した十二月の月夜。成長した蟹の兄弟は、川底で丸い月のような白い泡を吐き合いくらべをしています。そこへ頭上の水面を割って「トブン」と重いものが沈んできます。恐れおののく兄弟に対し、父親蟹は誇らしげに告げます。「やまなしだ。いい匂いだろう。木の実は落ちて、もうすぐ水の中でいいお酒になる」。三匹の蟹はやまなしを見上げながら、豊かな実りを待ち望む静寂の中で幕を閉じます。