赤木春恵という女優の凄みは、1970年代末から1990年代にかけて見せた「両極端な母親像」の完璧な演じ分けに集約されています。その代表格が『3年B組金八先生』と『渡る世間は鬼ばかり』という、TBSの金字塔的ドラマでした。
1979年にスタートした『3年B組金八先生』で彼女が演じたのは、桜中学の君塚美弥子校長でした。武田鉄矢演じる熱血教師・坂本金八の暴走を受け止め、時に厳しく諫めながらも、非行や妊娠といった過酷な現実に直面する生徒たちを絶対的な慈愛で守り抜く姿は、全国の視聴者にとって「理想の教育者像」そのものでした。職員室のデスクから眼鏡越しに見つめる温かな眼差しは、昭和後期の教育現場が抱えた歪みに対する最大の癒やしとして機能していたのです。
ところが1990年、橋田壽賀子脚本の『渡る世間は鬼ばかり』が始まると、彼女は日本中を戦慄させる小島キミへと変貌を遂げます。中華料理店「幸楽」を切り盛りする中で、息子の妻である五月(泉ピン子)に容赦ない小言と理不尽な要求を浴びせかける姿は、当時の日本社会における「嫁姑バトル」の象徴となりました。あまりの迫真の演技に、街を歩けば通行人から「五月さんをいじめないで!」と指をさされるほどの社会現象を巻き起こしました。
さらに、1983年のNHK連続テレビ小説『おしん』での神山ひさ役など、過酷な運命を耐え忍ぶ日本女性の強靭さを体現。彼女のキャリアは、日本のホームドラマ史における「母性の変遷」そのものでした。