阿知波悟美のキャリアを語る上で欠かせないのが、橋田壽賀子脚本の国民的ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』です。彼女が演じた中華料理店「幸楽」の従業員・周平の妻である田島(旧姓:川口)聖子役は、視聴者に強烈な印象を植え付けました。
聖子というキャラクターは、幸楽の嫁である五月(泉ピン子)や姑のキミ(赤木春恵)との間で巻き起こる複雑な人間模様において、時に打算的で、時に露骨な自己主張を繰り広げる難役でした。並の俳優が演じれば単なる嫌われ役に終わってしまうところを、阿知波悟美は「誰の心にも潜む日常的なエゴイズムと生活への必死さ」を巧みに織り交ぜることで、どこか憎めない生身の人間のリアリティへと昇華させました。
長台詞が連続する過酷な橋田ドラマの現場において、トーンを一切崩さず淀みなく感情をぶつけ合う彼女の芝居は、共演者やスタッフからも絶賛されました。この役柄の成功によって、彼女は「日本の家庭劇において生活の匂いを完璧に表現できる稀代の女優」としての評価を不動のものにしたのです。