レコード愛好家の間で高く評価されていた名曲が、一気に日本中の大衆の心へ突き刺さった決定的な転機、それがJR東海のクリスマス・エクスプレスCMシリーズです。
1988年、国鉄民営化間もないJR東海が制作した「ホームタウン・エクスプレス(X'mas編)」に起用されたのは、当時新人だった深津絵里でした。駅の改札口で待つ彼女の不安げな表情と、新幹線から降りてきた恋人を見つけた瞬間の輝くような笑顔。東海道新幹線を単なる移動手段から「人と人を会わせる奇跡の乗り物」へと昇華させたこの映像は、当時の若者たちの心を強烈に揺さぶりました。
そして翌1989年、主演を務めた牧瀬里穂のCMによって社会現象は頂点を迎えます。名古屋駅のコンコースを赤いコートで駆け抜け、柱の陰に隠れて息を整えながら恋人の登場を待つ――。あの劇的なダッシュといたずらっぽい笑顔は、今なお語り継がれるCM史の最高傑作です。実際の現場では、走るタイミングや柱への張り付き方について細密な演出が施され、リテイクを重ねた末の奇跡的なテイクだったと制作関係者は証言しています。
その後も高橋里奈(1990年)、溝渕美保(1991年)、吉本多香美(1992年)へと受け継がれ、2000年の世紀末特別CMでは深津絵里と牧瀬里穂が奇跡の再登場を果たしました。携帯電話やインターネットが普及していなかった平成初期の「遠距離恋愛のリアルな切なさ」と、新幹線のスピード感、そして切迫感を持って鳴り響く山下達郎のメロディ。これらが三位一体となったことで、冬の東京駅・名古屋駅のホームは憧れの聖地へと変わったのです。