日本国内ではアンダーグラウンドな性的記号として扱われてきたアヘ顔が、海外でここまで熱狂的な支持を集めた背景には、インターネットカルチャー特有の変容プロセスが存在します。
第1の理由は、「ショック・バリュー(挑発性・衝撃度)とユーモアの融合」です。欧米のインターネットコミュニティ、とりわけ4chanやRedditといった巨大掲示板では、既存のメインストリームやポリティカル・コレクトネスに対するアイロニー(皮肉)として過激な表現を面白がる土壌があります。白目を剥き舌を出した極端な表情は、西洋の視覚文化にはない強烈なインパクトを持ち、「意味不明で面白い究極のリアクション画像」として一気に拡散しました。
第2の理由は、「ストリートファッションとオタク文化の越境」です。2010年代半ば、モノトーンのコラージュ柄で埋め尽くされた「アヘ顔パーカー(Ahegao Hoodie)」が海外のECサイトで大量に流通し始めました。欧米のユースカルチャーにおいて、アニメはもはや隠れて楽しむものではなく、「自己表現としてのエッジーなスタイル」へと変化しています。ヒップホップ界隈のラッパーや著名ストリーマーが公の場で着用したことで、サブカルチャーの枠を超えたファッショントレンドとして定着しました。
第3の理由は、「SNSプラットフォームによるミームの記号化と脱コンテクスト化」です。TikTokやInstagramの台頭により、アヘ顔は「アヘ顔チャレンジ(#ahegao)」などのハッシュタグとともに動画のオチやダンスの決めポーズとして用いられるようになりました。ここでは本来の成人向け的な文脈は大幅に漂白され、「アニメ特有のクレイジーでキュートな表情」というキャッチーなビジュアル記号として、一般の若年層にも受容されていったのです。