1993年6月。雨上がりの東京を彩ったご成婚パレードで、皇太子妃(当時)となられた雅子さまが着用されたローブ・デコルテ。それは日本のファッション史における決定的な瞬間だった。手掛けたのは、パリのオートクチュール組合にアジア人として初めて加盟した森英恵である。
立体的な白バラの刺繍、滑らかなシルクジャガードの質感、そして立ち襟の優美なライン。西欧のロイヤルドレスの伝統を踏襲しながらも、どこかに日本の「引き算の美」を感じさせるそのデザインは、世界中で大絶賛を浴びた。ただ目立つのではなく、着用する人物の内なる知性と品格を引き出す——森英恵が貫いたその哲学こそが、現代まで続く皇室ファッションの新たなスタンダードとなったのだ。