県外の旅行者がよく抱く最大の勘違いが、「かすうどんの『かす』は天かす(揚げ玉)のことだと思っていた」というものです。実際のかすうどんの主役である「油かす」は、植物性油の揚げ玉とは完全に別次元の産物であり、牛の小腸(ヒモ・マルチョウ)を原料とする高純度な肉加工品です。
油かすの製造は、伝統的に大阪東部から南部、とりわけ羽曳野市を中心とする南河内地域で培われてきました。羽曳野市は古くから食肉処理施設が集まる食肉文化の中枢であり、新鮮な内臓肉が日常的に手に入る地域環境がありました。精肉を取り出したあとの小腸細切れを、不純物を取り除きながら大釜に入れ、脂自体の熱で弱火のまま数時間かけてじっくりと素揚げしていきます。この工程によって水分と余分な脂分が油の中に溶け出して抜け落ち、旨味成分と良質なタンパク質、コラーゲンだけがぎゅっと圧縮された茶褐色のブロック「油かす」が出来上がります。
もともと油かすは、南河内の一般家庭でお好み焼きや焼きそばのコク出し、あるいは刻んで野菜と煮込む隠し味として使われていた郷土の知恵でした。それが昭和後期から平成初期にかけて、うどんのトッピングとして屋台やロードサイドの店舗で提供され始めたことで「かすうどん」という独自のメニューが成立しました。地域の知恵が生んだ廃棄させないエシカルなホルモン活用術が、洗練を経て大阪を代表する麺料理へと押し上げられた歴史的背景があります。