西尾作品がグローバル展開を果たす中で、常に最大の壁として立ちはだかってきたのが「翻訳」の問題だ。英語をはじめとする外国語へ翻訳する際、彼のアクロバティックな仕掛けは各国の翻訳者たちを狂喜と絶望の渦へと叩き込んできた。
ルビ(振り仮名)によって提示される二重の意味や、日本語特有の同音によるダブル・ファンタジーは、直訳では100%脱落する。しかし、近年の海外版翻訳者たちは、現地の言語で同様の音韻戯れやアナグラムを再構築するという、超人的なアプローチでこれに応戦している。日本語という局所的な言語構造から生まれた戯れが、巡り巡って世界の翻訳文学の限界を押し広げている事実は極めて興味深い。