「なぜ、よりによって一番洗いにくい布団の上でするのか」。この悲痛な問いに対する答えは、猫本来の習性と猫が布団におしっこする心理を紐解くことで見えてきます。猫にとって布団という環境は、排泄場所として極めて魅力的な条件が揃っています。ふんわりとして足元が沈み込む感触は、自然界で彼らが好む柔らかい土や砂地に酷似しており、吸水性が高いため排泄後に自分の足が濡れる不快感もありません。さらに、大好きな飼い主の濃密な匂いが染み付いている場所は、猫にとって縄張りの中心であり、最も安心できるテリトリーでもあります。
一方で、多くの飼い主が無意識に陥ってしまう最大の落とし穴が「現行犯で見つけて大声で怒鳴る」「粗相した場所に鼻先を押し付ける」といった叱責です。はっきりと断言しますが、猫の粗相をやめさせるしつけとして「叱る」という行為は百害あって一利もありません。動物行動学において、猫は「過去の行動に対する人間の怒り」を論理的に結びつけて理解することができない動物です。現場で叱られた猫が学習するのは「ここで排泄したから怒られた」ではなく、「飼い主の目の前で排泄すると恐ろしい目に遭う」「飼い主が突然攻撃してくる」という恐怖体験だけです。
その結果、猫は飼い主を警戒するようになり、見つからないように隠れて布団の隙間やクローゼットで排泄するようになります。恐怖そのものが強烈なストレス源となり、新たな粗相のトリガーを引き起こすという最悪のスパイラルに突入します。猫の布団粗相が治らない理由の根底には、良かれと思って行った人間の感情的な叱責が、猫の不安行動を強化してしまっているケースが後を絶ちません。