日本が直面している課題のなかで、最も構造的で解決が困難とされているのが「シルバー民主主義」の深化です。少子高齢化が急速に進む日本において、有権者全体に占める65歳以上の高齢世代の割合はすでに40%に迫る勢いを見せています。投票率の格差も相まって、政治家にとって「選挙に勝つための合理的な戦略」は、人口が多く投票率も高い高齢層向けの政策(年金・医療・介護の維持)を優先し、将来世代への投資(子育て支援・教育・若手減税)を後回しにすることになってしまいます。
この人口動態の歪みは、議会制民主主義が本来前提としていた「世代を超えた公正な資源配分」という倫理観を内側から破壊しています。政治家個人の資質の問題ではなく、多数決を基本ルールとする選挙制度そのものが、人口の少ない現役世代・将来世代の利益を構造的に切り捨てるインセンティブを生み出してしまっているのです。
一般に知られていない盲点:直接民主制の過信という罠
こうした閉塞感を前に、ネット上では「国会を解散し、すべてスマホによるネット投票の直接民主制に移行すればいい」という極論が頻繁に語られます。しかし、これは危険な錯覚です。直接民主制の本質は、複雑な利害調整を「YesかNoか」の2者択一に単純化してしまう点にあります。
記憶に新しい2016年のイギリスEU離脱(ブレグジット)をめぐる国民投票では、感情的なスローガンとフェイクニュースが飛び交い、わずか数パーセントの僅差で国の針路が決定されました。その結果、離脱後に経済的混乱が長期化し、国民の間に埋めがたい分断を残すことになりました。感情に流されやすい大衆迎合(ポピュリズム)がSNSによって加速する現在、歯止めのない直接民主制を導入することは、古代ギリシャを滅亡へと追いやった「衆愚政治」の扉を開くリスクと隣り合わせです。