日常の会話や手紙において、親が息子のことをへりくだって呼ぶ表現は「不肖の息子」だけではありません。代表的な類語・言い換え表現として「愚息(ぐそく)」や「豚児(とんじ)」が存在します。これらは同列のへりくだり言葉として扱われがちですが、言葉に込められたニュアンスと成立背景には明確な差異が存在します。
最も身近な「愚息」との違いは、対比の対象が存在するか否かです。「愚息」は字義通り「愚かな息子」という意味であり、親の能力との比較ではなく、単にわが身のへりくだりとして自分の息子を低く表現する汎用的な言葉です。これに対して「不肖の息子」は、前述の通り「親(特に先代)の偉大さ」という比較対象が前提にあります。そのため、家業の事業承継や、名声のある親を持つ人物が自らを語る場面でより重い文脈を持ちます。
さらに古典的な漢文表現である「豚児(とんじ)」は、『三国志』の魏書に登場する曹操の言葉「生子当如孫仲謀、劉景升児若豚犬耳(子を産むなら孫権のようであるべきだ。劉表の息子などは豚や犬のようなものだ)」などに通じる表現で、自分の息子を豚の幼子にたとえてへりくだる究極の謙譲語です。明治から昭和初期の文豪の手紙などには頻出しましたが、2026年現在の現代日本語としては過剰な卑下表現と受け取られ、公的な場を除いて実生活ではほぼ姿を消しています。
一方で、相手の息子を敬う「対義語」についても正確に把握しておかなければなりません。他人の息子に対しては、決して「不肖」や「愚息」を使ってはならず、「ご子息(ごしそく)」「令息(れいそく)」「ご令息」などの尊称(他尊語・尊敬語)を用いるのが絶対のルールです。優秀な息子を褒める表現としては「俊童(しゅんどう)」「驥児(きじ)」などの語もあります。