悪役商会が旗揚げされたのは1983年(昭和58年)のことでした。当時、映画業界は大きな転換期を迎えており、一世を風靡した東映ヤクザ映画や大映・東映の時代劇が急速に衰退していました。テレビドラマの制作費削減も重なり、最も大きな打撃を受けたのが「悪役専門」のバイプレイヤーたちでした。主役を引き立てるために斬られ、撃たれ、泥水をすすってきた男たちの仕事場が、急速に失われていたのです。
元プロ野球選手(東映フライヤーズ投手)から俳優へ転身し、数々の修羅場を演じてきた八名信夫氏は、当時の特番インタビューや自著の手記のなかで、結成時の切実な胸の内を次のように振り返っています。「主役がどれだけ格好良くても、強くて凄みのある悪役がいなきゃドラマは成立しない。だが映画が下火になり、仲間たちが次々と食えなくなって現場を去っていく。このままじゃ日本の悪役の技術が途絶えてしまう。だったら、悪役ばかりを集めて自分たちで仕事を作り出すしかないと腹をくくった」。
こうして立ち上げられた悪役商会は、単なる芸能事務所の枠組みを超えた、言わば「職人俳優たちの互助組織であり防衛ギルド」でした。強面ばかりが数十人揃う異様な集団は当初、業界内でも奇異の目で見られましたが、八名氏の卓越したプロデュース能力により、彼らは思わぬ新天地を見出すことになります。