大相撲の異質な勝敗構造に、経済学のメスを入れた人物がいる。シカゴ大学の経済学者スティーヴン・レヴィット教授だ。彼は著書『ヤバい経済学』(原題:Freakonomics)の中で、1980年代から1990年代にかけての数千に及ぶ取組データを統計的に分析し、極めて歪んだ勝率の偏りを暴露してみせた。
千秋楽を迎えた時点で「7勝7敗(勝ち越しまであと1勝)」の力士と、「8勝6敗(すでに勝ち越し決定)」の力士が対戦した場合、本来の対戦成績に基づく期待勝率を大幅に上回り、7勝7敗の力士が約80%という異常な高確率で勝利していた。しかし、その翌場所で同じ二人が再戦すると、今度は8勝6敗だった側の勝率が跳ね上がる。貸した「星」を次の機会に返してもらうという、統計学的に証明されたギブ・アンド・テイクの構造だった。
レヴィット教授の分析は、感情論や噂ではなく、数学的な証拠として角界の暗黙のシステムを突きつけた。スポーツの公正さを揺るがすこの論文は世界中で話題となり、データアナリティクスの視点からプロスポーツの不正をあぶり出す金字塔的分析として高く評価されている。