日本語の「高じる」が帯びる微妙な陰影は、他言語との比較によって一層鮮明になる。グローバルビジネスの場でニュアンスを正確に伝える際、好きが高じての英語表現とニュアンスの使い分けは非常に示唆に富んでいる。
英語圏において、趣味からビジネスへの転換を前向きに語る場合は次のようなフレーズが定石となる。
- Turn a hobby into a business / career: 「趣味をビジネス(本業)に変える」。最も客観的で、起業家精神(アントレプレナーシップ)を称賛する健全な響きを持つ。
- Fueled by passion: 「情熱を原動力として」。情熱がポジティブな推進力として機能している状態をストレートに表現する。
一方で、日本語の「高じる」が持つ「制御不能な過熱」「やりすぎ」を表現する際には、全く異なるイディオムが用いられる。
- Carried away by one's enthusiasm: 「熱中しすぎて我を忘れる、度を越す」。思慮を欠いた行動に対する反省のニュアンスを含む。
- Taken to an extreme: 「極端な域に達する」。客観的に見てバランスを著しく欠いている状態を指す。
英米圏の文化では「Passion(情熱)」を資本主義の推進力として肯定的に捉える傾向が強いのに対し、日本の伝統的な語感における「好きが高じる」には、「道楽が過ぎて身上を潰す」「本分を忘れて熱病に冒される」という、共同体道徳に根ざした自戒と恥じらいの感覚がどこか宿っている。この文化差を理解しておくことは、国際的なビジネス折衝における自身の立ち位置を規定する上でも極めて重要である。