原作である堀辰雄の小説『風立ちぬ』は、信州の高原療養所を舞台に、病に侵されたヒロイン・節子との静かな死生観を見つめる内省的な物語だ。そこには飛行機も、兵器開発に苦悩する設計技師も現れない。
映画版においてヒロインの名前が「菜穂子」とされている点は、ファンには見逃せない裏設定である。これは堀辰雄の別の代表作である小説『菜穂子』からとられたものだ。宮崎監督は『風立ちぬ』の骨組みに『菜穂子』の人物像を重ね合わせ、さらに堀越二郎の青春記をクロスオーバーさせた。既存の枠組みを解体して作られたオリジナルの劇場アニメだからこそ、唯一無二の輝きを放っている。