1963年の日本初の本格連続テレビアニメ『鉄腕アトム』から約半世紀にわたり業界を支えたセル画ですが、1990年代末から2000年代初頭にかけて急速にその役目を終えました。セル画がなくなった理由には、単なる流行の変化ではなく、産業構造の限界と技術革新による複合的な要因が存在します。
最大の要因は、素材メーカーによる資材供給の停止です。2000年代初頭、富士フイルムなどの主要化学メーカーがセル用アセテートシートの製造から相次いで撤退し、専用のセル絵の具を製造していた太陽色彩なども事業を縮小・終了しました。これにより、物理的にセル画を調達・制作し続けること自体が困難になったのです。
さらに、地上デジタル放送の開始に伴うハイビジョン(HD)化への対応が決定的打撃となりました。高精細画面では、セル画の表面に付着した微小なチリ、セルを重ねた際に生じる光の反射や影、絵の具の厚みによる段差までもが鮮明に映り込んでしまいます。これらを防ぐためのレタッチや管理コストが莫大に膨れ上がった結果、PC上で直接彩色と合成を行う「デジタルペイント(RETAS STUDIOなど)」への完全シフトが急速に加速しました。
スタジオジブリは1997年の『もののけ姫』で部分的にデジタルペイントを導入し、2001年の『千と千尋の神隠し』で本格的にデジタル制作へ移行。長年セル画制作にこだわり続けた国民的アニメ『サザエさん』が2013年10月放送分をもってデジタル作画へ完全移行したことで、日本の地上波テレビアニメにおけるセル画の歴史は完全に幕を閉じました。