ビーチの均衡が音を立てて崩れ去った直接の引き金、それは最高権力者ボーシヤの死でした。
外界でのげぇむに挑み命を落としたと発表されたボーシヤでしたが、その死の真相は遥かに残酷なものでした。残存ビザの日数が尽きかけ、死の恐怖に精神を侵されたボーシヤは、組織を統制し続けるために「反対分子の粛清」という凶行に走ろうとしていたのです。親友が完全に狂気へと堕ちたことを悟ったアグニは、これ以上の醜態を晒させないため、そして親友としての尊厳を守るために、涙を呑んでボーシヤを銃殺しました。
しかし、アグニはその事実を公表できず、武闘派を抑え込む自信を喪失します。自身の犯した「親友殺し」の重圧に耐えかねたアグニの心は完全に壊れ、自らの破滅を望むようになっていきました。その虚無のタイミングを見計らったかのように発生したのが、難易度「ハートの10」のげぇむ「まじょがり」でした。
ビーチのロビー中央で、胸に包丁を突き刺されて絶命していた少女モモカ。鳴り響くアナウンスが告げたげぇむのルールは、「モモカの命を奪った『魔女』を突き止め、ホテルの庭にある審判の炎で焼き尽くせ」というものでした。制限時間はわずか2時間。疑心暗鬼が頂点に達したリゾート空間は、瞬く間に地獄絵図へと変貌します。
自暴自棄となったアグニ、そして暴力を楽しむニラギをはじめとする武闘派は、「魔女が誰かわからないのなら、滞在者全員を殺して炎に投げ込めば確実にクリアできる」という狂気の決断を下しました。ライフルや機関銃による無差別虐殺が始まり、逃げ惑う一般住民たちが次々と凶弾に倒れていきます。リゾートのプールは血で赤く染まり、ビーチは物理的にも精神的にも完全に崩壊しました。
この大殺戮劇の幕を引いたのは、アンの科学的アプローチと、絶体絶命の窮地から脱出したアリスの推理でした。アンはモモカの遺体に残された指紋の角度や傷口の入り方を丹念に検証。アリスはモモカの胸に刺さった刃物の軌道から、「他殺ではなく、自らの手で胸を突いた自殺」であることを論理的に導き出したのです。すなわち、「魔女の正体はモモカ本人」でした。
アサヒと共にゲームを裏で支える「ディーラー」として送り込まれていたモモカは、無邪気なプレイヤーたちが次々と命を落としていく現実に耐えかね、自らの命を捧げることでこの非情なシステムに抗議した黒幕ならぬ「犠牲者」だったのです。真実が白日の下に晒され、モモカの遺体が炎へと投じられたことでげぇむはクリアとなりましたが、残されたのは焼け爛れたホテルの残骸と、累々たる屍の山だけでした。
数百人を数えた滞在者のうち、最後の生存者となったのは、アリス、ウサギ、チシヤ、クイナ、アン、そして重傷を負いながらも生き延びたアグニとニラギら、ごくわずかな主要人物のみでした。彼らは絵札の主たち(絵札のゲームマスター)が待ち受ける、さらなる過酷な「ネクストステージ」へと歩を進めることになります。