作品をより深く味わうために欠かせないのが、キャラクターとしてのドクの生い立ちと、彼を演じたクリストファー・ロイド自身のキャリアです。スクリーン上で描かれる破天荒な姿の裏には、緻密に練り上げられた設定と、名優の類まれなる演技論が存在します。
ドクのフルネームは「エメット・ラスロップ・ブラウン(Dr. Emmett Lathrop Brown)」。劇中では語り尽くせなかった設定によると、1920年代にドイツ系移民の家庭に生まれ、一族の資産をすべて自身の科学実験につぎ込んできたという、まさに「科学に人生を捧げた男」です。ミドルネームの「Lathrop」を逆から読むと「portal(次元の門)」に近い響きになるという言葉遊びが仕掛けられている点も、脚本のボブ・ゲイルらが込めた細部へのこだわりを物語っています。
そして、映画史に燦然と輝くタイムマシン「デロリアン」の開発理由は、1955年11月5日に遡ります。自宅のトイレで時計を掛けようとして便器の縁で足を滑らせ、頭を強打した瞬間、彼の脳裏に「次元転移装置(フラックス・キャパシター)」のアイデアが閃いたことがすべての始まりでした。ベース車両にガルウィングドアが特徴的なスポーツカー「DMC-12(デロリアン)」を選んだ理由について、ドク自身は劇中でこう語っています。「どうせタイムマシンを作るなら、スタイリッシュな方がいい。それに、ステンレス鋼のボディが次元転移の流束分散に好都合なのだ」。この理屈とロマンが同居した発想こそが、彼の真骨頂です。
一方、演じたクリストファー・ロイド自身の俳優経歴も極めて重厚です。1975年のアカデミー賞受賞作『カッコーの巣の上で』で映画デビューを果たし、舞台で培った圧倒的な身体表現力を武器に頭角を現しました。大ヒットドラマ『Taxi』でエミー賞を2度獲得した後、ドク役に抜擢。後に映画『アダムス・ファミリー』シリーズで見せた怪演フェスター伯父さん役など、観客の脳裏に焼き付く怪優としての地位を築き上げていきました。