ネットの掲示板やSNSでは、毎年のように「これだけ売れるのだから通年販売してほしい」「レギュラーメニュー化すれば確実に利益が出るはず」という熱烈な要望が投稿されます。しかし、定番化されない理由には、単なるマーケティング戦略にとどまらない、店舗オペレーション上の決定的な技術的障壁が存在しています。
第1の障壁は、「フライヤーの油移り問題」です。日本KFCの心臓部である「オリジナルチキン」は、カーネル・サンダース秘伝の11種類のハーブ&スパイスを用い、最高品質の圧力釜フライヤーで揚げられます。一方、レッドホットチキンにはハバネロやレッドペッパーなどの強力な香辛料がふんだんに練り込まれています。もし同じフライヤーや共通のショートニング油で揚げてしまえば、油全体に唐辛子の風味やカプサイシンが溶け出し、ブランドの根幹であるオリジナルチキンの繊細な風味が完全に破壊されてしまいます。全店舗に辛口チキン専用のフライヤーを常設するスペースと莫大な設備投資を考慮すると、物理的に通年維持は困難なのです。
第2の理由は、「ウォーマー(保温什器)の収容上限」です。店舗の厨房には、揚げ上がったチキンを一定の温度と湿度で保管する保温キャビネットが設置されています。ここにオリジナルチキン、骨なしケンタッキー、ナゲット、さらに期間限定のバーガー類が並ぶ中で、辛口チキンを365日収容し続けるスペースの余裕は、中小型店舗を中心に皆無といえます。
第3の理由は、「スケアシティ・エフェクト(希少性の法則)」によるブランド鮮度の維持です。「今しか食べられない」という強烈な飢餓感を与えることで、普段はファストフードを利用しないライト層まで一気に呼び込み、サイドメニューやドリンクを含む客単価を跳ね上げる起爆剤として機能させているのです。