インターネット上の掲示板やSNSでは、歌舞伎の敷居の高さから生じた誤解が散見されます。その代表例が「着物やスーツを着ていかないと浮いてしまうのではないか」という服装への不安です。
現場を視察すれば一目瞭然ですが、歌舞伎座の幕見における服装マナーに過度なドレスコードは一切存在しません。Tシャツにジーンズ、スニーカーといった普段着の観客が全体の半数以上を占めており、会社帰りのスーツ姿や海外からの観光客の軽装もごく自然に溶け込んでいます。むしろ注意すべきは「音とサイズ感」です。座席の前後間隔は一般席に比べてタイトに設計されているため、通路を塞ぐような巨大なバックパックや、動くたびにカサカサと摩擦音が鳴るナイロン素材の衣類は周囲の迷惑になります。コートや大きな荷物は事前に東銀座駅のコインロッカー等へ預けておくのがスマートです。
もう一つの重大な盲点が、古典芸能の難解さをどう克服するかという点です。歌舞伎のセリフは古語や独特の調和で語られるため、予備知識なしで鑑賞すると「筋立てが追えないまま終わってしまった」という消化不良に陥りかねません。そこで絶対に活用したいのが歌舞伎座の幕見用イヤホンガイドです。
幕見席フロア(4階ロビー)には専用のイヤホンガイド貸出窓口が設置されており、幕見限定の利用料(保証金込みシステムまたは電子決済対応)でレンタルが可能です。舞台の進行に合わせて、役者の名乗り、セリフの意味、背景にある江戸時代の風習、衣装に込められた意味などを絶妙なタイミングで肉声解説してくれます。これがあるかないかで、1時間の幕見体験の解像度は何倍にも跳ね上がります。