劇画がリアルな陰影を描く一方で、まったく異なるベクトルから成人向け漫画の地平を拡張したのが吾妻ひデオである。彼の登場は、サブカルチャーの構造を根本から塗り替えるほどの衝撃を与えた。
吾妻ひデオが持ち込んだのは、不条理なギャグと軽やかなSF的想像力、そして独特の可愛らしさを備えた美少女描写だった。ドロドロとした性描写が主流だった当時の業界において、彼の描く記号化されたフェティシズムとナンセンスな世界観は異彩を放ち、のちの「オタクカルチャー」の原型を決定づけた。
過酷な執筆活動と破滅的な私生活の中で生み出された作品群は、成人向け漫画という枠組みを軽々と飛び越え、手塚治虫をはじめとする巨匠たちをも唸らせた。性が持つ生々しい毒性を、ポップな絵柄と狂気の笑いで解毒しつつ再構築した功績は計り知れない。