インターネット上の掲示板やSNSで頻繁に見受けられる大きな誤解の一つに、「八卦百二十八掌は原作でも登場した正統な上位互換技である」という認識があります。しかし結論から申し上げますと、八卦百二十八掌は岸本斉史氏の原作コミックスには一度も登場していません。
百二十八掌は、テレビアニメ第117話「奪還作戦・サスケ奪還編」において、音の四人衆・鬼童丸と対峙したネジの戦闘シーンをスケールアップさせるために、スタジオぴえろの制作陣が作り上げた完全なアニメオリジナル技です。原作の鬼童丸戦におけるネジは、無数に降り注ぐ蜘蛛の矢を「八卦掌回天」と「通常の柔拳」、そして自身の身体を貫通させてチャクラを糸に流し込む決死の機転で勝利を収めました。アニメ版では、矢の猛攻を全て掌打で弾き返すカタルシスを演出するため、倍の打撃数を誇る百二十八掌が採用され、これが爆発的な人気を博したため公式ゲーム等にも逆輸入されたという背景があります。
また、術のコンセプトそのものに目を向けると、非常に奥深い東洋哲学と伝統武術のルーツが存在します。その筆頭が、中国の三大内家拳の一つとして知られる実在の拳法「八卦掌(はっけしょう)」です。
実在の八卦掌は、清代末期に董海川(とうかいせん)によって創始されたと伝えられ、拳ではなく「掌(手のひら)」を用い、相手の周囲を円を描くように回り込む歩法(走圏)を最大の特徴とします。相手の正面から力でぶつかり合うのではなく、円運動によって死角へと回り込み、急所を的確に打つその技術体系は、日向の柔拳そのものです。
さらに「六十四」という数字の由来は、古代中国の儒教経典『易経』における「易の六十四卦」に直結しています。森羅万象の変化を「陰」と「陽」の組み合わせ、すなわち2の6乗=64通りのシンボルで表した哲理です。足元に展開される「八卦の陣」も、易の基礎である太極・両儀・四象・八卦の図像そのものであり、岸本斉史氏が古代の易学と内家拳の様式美を、忍のチャクラ理論へと見事に昇華させたことが窺えます。