メディアでは「誰もが穏やかに微笑み合うユートピア」のように描かれがちなデンマークですが、社会学的な視点で観察すると、デンマークのヒュッゲに隠された闇と真相が浮かび上がってきます。現地でのフィールドワークや外国人居住者の証言において、最も頻繁に指摘されるのが「ヒュッゲが持つ排他性」です。
ヒュッゲの空間は、「全員が同じ価値観を共有し、不穏な議論や対立を徹底的に避けること」によって成立します。政治的な議論や重い話題、異なる意見の持ち込みは、その場の空気を壊す無粋な行為とみなされます。その結果、既に関係性が完成している内輪のコミュニティは強固になる反面、新参者や外国人、異なる文化を持つマイノリティを自然と排除してしまう「閉鎖的なバウンダリー」を生み出しやすい構造を持っています。
さらに、北欧の厳しい自然環境も無視できません。冬場は日照時間が1日6時間未満に落ち込み、午後3時過ぎには漆黒の闇に包まれます。この過酷な気候がもたらす「季節性情動障害(冬季うつ)」に抗う防衛本能として、無理にでも部屋を暖かくし、仲間と寄り添うヒュッゲが必要だったという生存戦略の側面があります。事実、OECD(経済協力開発機構)などの国際医療統計においても、デンマークをはじめとする北欧諸国の抗うつ薬処方率は世界的に見ても決して低くありません。
つまり、ヒュッゲとは手放しの天国から生まれた産物ではなく、過酷な暗闇と厳しい寒さの中で、精神の均衡を保つために編み出された「切実な生活の知恵」なのです。この二面性を理解してこそ、その真の価値を捉えることができます。